A いいえ、行政書士は、裁判上での法的手段を用いらなくても私的自治での紛争解決が可能な状態ならば、弁護士法所定の事件性の要件を満たさず非弁行為には当たらないのであって、和解契約書を締結するために代理人として慰謝料請求したり、過失割合などを交渉して契約締結を行い、和解契約書を作成することは予防法務ですので適法です。
事件性(紛争性、紛議、争訟性、法的紛議、法律問題、法律事件などの類似する名称を問わず)が高まれば、行政書士はそれ以上の交渉はできませんが、この点は弁護士であっても同じです。
ただ、弁護士の場合は、裁判所を通じた法的手段を用いることができるにすぎず、更なる交渉を特別にできるわけではありません。
事件性が高まれば、行政書士は辞任して、本人が以降の交渉を続けるか、弁護士、認定司法書士、司法書士に引き継ぐかなどを検討することになります。
行政書士は、裁判上の法的手段を用いらなければ解決が難しいほどに当事者間の紛争が顕著に成熟して事件性が高まるに至る前段階においては、事件性を帯びる高度な蓋然性がない限り、予防法務の専門家として紛争の未然防止に尽力して国民の権利利益の実現に資する使命があります。
弁護士法と行政書士法の業際に関する部分の条文解釈は次のとおりです。
業務法解釈
■<弁護士法>
●(弁護士の職務)
第三条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
○弁護士法第3条第1項の規定で、弁護士の業務は次のとおり。
・訴訟事件、非訟事件に関する行為
・審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為
・一般の法律事務
○弁護士法第3条第2項の規定で、弁護士は次の業務もできる。
・弁理士の事務
・税理士の事務
●(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
○弁護士法第72条の規定で、次に該当するものは非弁行為となる。
1 弁護士又は弁護士法人でない者は
2 報酬を得る目的で
3-1 訴訟事件、非訟事件
3-2 審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件
3-3 一般の法律事件
に対して
4-1 法律事務(例として、鑑定、代理、仲裁、和解)を取り扱うこと
4-2 法律事務(例として、鑑定、代理、仲裁、和解)を周旋をすること
を業とすることができない。
○ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
と、あるから、弁護士法または例えば行政書士法に別段の定めがある場合は適用されない。
■<弁護士法所定の事件性>
◆事件性必要説
【法務省、総務省、日本司法書士会連合会、日本行政書士会連合会、学説】
法務省、総務省、日本司法書士会連合会、日本行政書士会連合会、学説などは、弁護士法第3条の法律事務と第72条の法律事件の文言の違いなどから事件性を必要とする見解を示しています。
【法務省】
●法曹制度検討会(第24回)議事概要(司法制度改革推進本部事務局)
1 日時:平成15年12月8日(月) 10:30~12:00
2 場所:司法制度改革推進本部事務局 第1会議室
3 出席者:黒川弘務(法務省大臣官房司法法制部司法法制課長)、他省略
○報酬性
報酬を得る目的という要素について御説明しますと、法第72条本文は「報酬を得る目的」で行う行為を規制しております。
この報酬は、現金に限らず物品や供応を受けることも含まれ、額の多い、少ないは問わず、第三者から受け取る場合も含まれると解されております。
他方で、無償で受託する場合は報酬を得る目的があるとは言えません。
また、実質的に無償委任と言える場合であれば、特別に要した「実費」、実費部分を受領しても報酬とは言えないと思われます。
この「実費」の範囲だと思われますが、当該委任事務を行うために特別に費やされた、例えばコピー代等のようなものはこの「実費」に含まれる可能性がございます。
他方、人件費のように、当該事務を行うために特別に費やされたとまでは言えないものは、全体として報酬と評価されることが多いのではないかと考えております。
○事件性
「法律事件」という要素についてでございますが、この法律事件といいますのは、法第72条本文に、「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して」と書かれております。
このうち「その他一般の法律事件」が何を指すかについては、一般に法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件とされておりますけれども、この点について、いわゆる「事件性不要説」と「事件性必要説」という考え方がございます。
「事件性必要説」というものは何かと申しますと、例えば列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、言い換えれば、事件というにふさわしい程度に争いが成熟したものであることを要するとしております。
つまり紛争性がある程度成熟して顕在化しているものであれば、法第72条の規制の対象になるけれども、そうでない場合には、つまり事件性がない場合には法第72条の規制の対象にはならない、というのが「事件性必要説」です。
法務省としては、事件性不要説は相当ではないと考えておりまして、事件性必要説が妥当だと考えております。
その理由はいろいろございますけれども、事件性不要説では、処罰範囲が著しく拡大してしまいますし、本来、弁護士法第72条が想定している射程の範囲を超えるような事柄についてまで処罰の対象としてとらえてしまうことになるからという点が一番大きい理由になっています。
事件性不要説の場合、新たな権利義務関係が発生すれば、すべて「その他一般の法律事件」に該当することになりますので、例えば一般の業者が仲介業を行う賃貸住宅の賃貸借契約や不動産の売買契約の締結作用等もすべて法律事件に該当することになってしまって相当ではないと考えています。
法第72条が弁護士の職務を定めた法3条1項に比べて、限定的な文言を用いていることからも分かるように、弁護士法は刑罰をもって、弁護士以外の者が弁護士の業務一般について行った場合を処罰するのではなく、事件性がある法律事務を行った場合に処罰する趣旨であることを定めたものと考えるのが適当であろうと思われます。
以上の理由から、法務省としては、いわゆる「事件性必要説」に立っているわけですけれども、その場合、争いや疑義としてどの程度のものが必要かが次に問題となろうかと思います。
この点、ここに争いや疑義が抽象的又は潜在的なものでもよいと考えてしまいますと、事件性不要説と同じ結論になってしまいますので、争いや疑義は具体化又は顕在化したものであることが必要と考えます。
●第162回国会 衆議院 厚生労働委員会 第26号 平成17年6月8日 午前9時32分開議
政府参考人 倉吉敬(法務省大臣官房司法法制部長)、他省略
○弁護士法の優位
「弁護士法も、それから社会保険労務士法等の隣接法律専門職種の業法も、いずれも法律でございます。
上位規範、下位規範の関係にございません。
ただ、法律専門事務の取り扱いにつきまして弁護士法七十二条が一般的に弁護士以外の者による取り扱いを禁じておりますので、他の法律専門職の業法に弁護士法七十二条の特別法となる部分が出てくる、ただそれだけにすぎない、そういう関係でございます。
弁護士法七十二条が「他の法律」と規定しておりますのは、このような一般法、特別法の関係が存するということを確認的に示したものでございまして、弁護士法が今御指摘の他の法律よりも上位の規範であるということはございません。」
○報酬性
七十二条の要件を説明しろという御趣旨だと思います。
まず、七十二条には、報酬を得る目的と、それから業としてという要件を掲げております。
したがいまして、無償で行う場合はまず七十二条違反にはならない。
○業務性
それから、反復継続して行う事実とか、反復継続して行うという意思がない場合には業としてということになりませんので、これも当たらないということになります。
○事件性
また、弁護士法七十二条が規制しておりますのは、法律事務の取り扱いすべてではありません。
若干条文を援用いたしますが、「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して」となっておりまして、これについて法律事務を取り扱うこととされております。
この「一般の法律事件」につきましては、いわゆる事件性があるということが必要と解されまして、事件性のない法律事務を取り扱うことは同条に違反しないと解釈しております。
なお、この事件性とは、文献によりますと例えばこのように書かれておりまして、今読み上げました列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、言いかえれば、事件というにふさわしい程度に争いが成熟したものであるということとされております。
【東京都行政書士会 「行政書士必携~他業種との業際問題マニュアル」】
裁判所の調停や訴訟にまで発展していない段階:行政書士が解決のために「協議」や「話し合い」を主導することは弁護士法に違反しない。
・裁判所の手続が必要なほどに「事件」として争いが成熟したものは弁護士案件。
・裁判所の手続が必要なほどに達していないものであれば、行政書士も対応できるというのが行政書士業界の見解。
【最高裁】
○報酬性
●弁護士法七十二条にいう「報酬」とは、名目の如何を問わず、同条に掲げられた諸般の行為の対価としての意味をもつ利益を指称するものと解するのが相当である(最二小判昭和31年5月11日 刑集10巻5号451頁)。
○業務性
●弁護士法第七十二条にいわゆる「業とする」とは反復継続して行う意思のもとに同条所掲の行為をなすことをいうものであって、具体的になされた行為の多少は、問う所ではないと解する(最二小決昭和34年12月5日 刑集13巻12号3174頁)。
○事件性
●同条にいう「その他一般の法律事件」とは、同条に例示されている訴訟事件、非訟事件、審査請求、異議申立、再審査請求などに準ずる程度に、当事者間で法律上の権利義務が現実に争われ、又は疑義があり、その私的自治による解決のつかないものか、若しくは、その解決を計ることが困難なため、裁判や仲裁、和解、調停などによって、法的手段を以て、その解決を計ることが必要であるか、又は、そのおそれのある事件をいうと解するのが相当である(最一小判昭和46年7月14日 刑集25巻5号690頁)。
●弁護士法第七十二条にいう「その他一般の法律事件」とは、同条に例示されている訴訟事件、非訟事件、審査請求、異議の申立て、再審査請求などに準ずる程度に、当事者間で法律上の権利義務が現実に争われ、又は疑義があり、その私的自治による解決のつかないものか、若しくは、その解決を図ることが困難なため、裁判や仲裁、和解、調停などによって、法的手段を以て、その解決を計ることが必要であるか、又は、そのおそれのある事件をいうと解するのが相当である(最一小判昭和53年3月15日 民集32巻2号314頁)。
●交渉において解決しなければならない法的紛議が生じることがほぼ不可避である事件(最一小決平成22年7月20日 刑集64巻5号793頁)。
【高裁】
同条のいう「その他一般の法律事件」とは同条に列挙された事件(訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求など、行政庁に対する不服申立手続等)と同視し得る程度に法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係が発生する事件をいうと解するのが相当である(広島高判平成27年9月2日 判例タイムズ1432号143頁)。
【地裁】
●法的紛争事件説:弁護士法第七十二条にいう「法律事件」とは、同条に例示された訴訟事件、非訟事件、審査請求等の如く、現に法的紛議が存し、又は権利義務や事実関係について当事者間に法的主張の対立があり、法的な紛争解決を必要とすると認められる事件をいうと解するのが相当である(東京地判平成5年4月22日 判例タイムズ827号196頁)。
●紛争性成熟説:弁護士法第七十二条にいう「法律事件」とは、同条に列記されている訴訟事件、非訟事件、審査請求、異議申立、再審査請求等、公の機関が関与して法律上の権利義務を確定し、またはこれに変動を及ぼす手続の対象となっている事件そのもの、およびこれらと同列に列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、換言すれば「事件」というにふさわしい程度に争いが成熟したものであることを要するものと解するのが相当である(札幌地判昭和45年4月24日 判例タイムズ251号305頁)。
●簡易少額説:紛争の実体・態様に照らし、一般人がこれに当面しても通常弁護士を依頼して処理することを考えられないような簡易少額な民事法律事件は、たとえこれについて法律上の知識を要する側面があるとしても、同条にいう法律事件には含まれないものと解するのが相当である(東京地判昭和43年7月11日 昭和43年(わ)第584号)。
◆事件性不要説
【日本弁護士連合会】
日本弁護士連合会は「条解弁護士法 第4版」 日本弁護士連合会調査室 弘文堂 2007年の615頁で、弁護士法第3条の法律事務と、ほぼ同じとする見解を示しています。
【高裁】
法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件も弁護士法第72条にいう一般の法律事件だと解する高裁の判例(東京高判昭和39年9月29日、大阪高判昭和43年2月19日、東京高判平成7年11月29日、大阪高判平成26年6月12日など)が若干あります。
■<行政書士法>
●第1条の3(業務)
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
○「官公署」とは「国、地方公共団体およびその他の公の団体の諸機関の総称」をいい、代表的なところとして、省庁・都道府県庁・市町村役場・警察署・裁判所・法務局・労働基準監督署・保健所・出入国在留管理局などがある。
つまり、裁判所も含まれているが、個別法で除外されていると、行政書士は提出する書類の作成ができないことになります。
この「官公署」を最初から行政官庁のみとする解釈は条文上にも規定がなく誤りと言えます。
○行政書士法第1条の3第1項の規定で、行政書士の業務は次のとおり。
1 行政書士は
2 他人の依頼を受けて
3 報酬を得て
4 次の業務をする
・官公署に提出する書類を作成すること
・権利義務に関する書類を作成すること
・事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成すること
※上記3つの書類は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものも含まれる。
○行政書士法第1条の3第2項の規定で、業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
●第1条の4(業務)
行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。
ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
二 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
2 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。
○行政書士法第1条の4第1項の規定で、次の事務も業とすることができる。
1 行政書士は
2 他人の依頼を受けて
3 報酬を得て
4 次の事務も業務とできる
1号
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続について代理すること。
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等と受理に関して行われる意見陳述のための手続(例として、聴聞、弁明の機会の付与の手続)において当該官公署に対してする行為(弁護士法第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
2号
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理すること。
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について官公署に提出する書類を作成すること。
3号
・行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
4号
・行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
※上記の書類は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものも含まれる。
○2号業務に関しては行政書士法第1条の4第2項の規定で、特定行政書士に限られる。
○ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
【総務省】
「詳解 行政書士法第5次改訂版」、地方自治制度研究会編、ぎょうせい、令和6年3月25日発行の57頁に、行政書士法を所管する総務省の公権解釈の内容が下記のとおり記載されています。
総務省自治行政局行政課の二瓶博昭氏の平成13年9月号掲載の論文「地方自治」第646号、行政書士法の一部改正について、地方自治制度研究会、平成13年9月5日発行の92から96頁で、「ここでいう「代理人として」とは、契約等についての代理人としての意であり、直接契約代理を行政書士の業務として位置づけるものではないが、行政書士が業務として契約代理を行い得るとの意味を含むものであると解される。」という解釈を示しています。
「またこの規定により、行政書士は契約書に代理人として署名し、契約文言の修正等を行うことができることとなる。」という解釈を示しています。
行政書士法の一部改正について
二瓶博昭(総務省自治行政局行政課)
一 はじめに
行政書士法の一部を改正する法律(平成一三年法律第七七号。以下「改正法」という。)が本年六月二二日に成立し、同年六月二七日に公布された。
本法は、平成一四年七月一日から施行されることとなっている。
行政書士法は、その制定および数次にわたる改正の多くは議員立法により行われてきた経緯があり、今回の改正についても、議員立法により行われたものである。
すなわち、本年四月一〇日、自由民主党政務調査会の総務部会において改正法案が了承された後、各党間の調整を経て、六月五日に衆議院総務委員会委員長提案として国会に提出され、六月七日に衆議院本会議で賛成多数により可決、六月二一日に参議院総務委員会で可決、翌六月二二日に参議院本会議で賛成多数により可決・成立した。
今回の改正は、行政に関する手続の円滑な実施および国民の利便向上の要請への的確な対応を図るため、目的規定を整備し、行政書士が作成することができる書類に係る官公署への提出手続を代理することおよび行政書士が作成することができる契約その他の書類を代理人として作成すること等の業務を行政書士の業務として明確化するとともに、日本行政書士会連合会が行政書士の登録をしたときに行政書士証票を交付するものとすることを内容とするものである。
以下、本改正の主要な内容について説明することにする。
なお、本文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることを予めお断りしておく。
二 主な改正内容
(1) 目的規定の整備
改正の第一点は、行政書士法の目的規定を整備したことである。
すなわち、行政書士法は「行政書士の制度を定め、その業務の適正を関ることにより、行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、あわせて、国民の利便に資することを目的とする」こととされたものである(改正後の行政書士法(以下「新法」という。)第一条)。
行政書士は、官公署に提出する書類の作成等のみならず、私人間の権利義務や事実証明に関する書類の作成についても、その業務範囲とするところである。
しかし、改正前の行政書士法(以下「旧法」という。)第一条では「行政に関する手続の円滑な実施に寄与し、国民の利便に資することを目的とする」とされており、この規定のままでは「行政に関する手続の円滑な実施に寄与し」の部分のみに着目して解釈した場合、行政書士法第一条の二との関係で、ともすれば本条が「官公署に提出する書類」に過度に重点が置かれており、したがって、行政書士の業務のうち「権利義務または事実証明に関する書類」を作成することば行政書士法の目的を逸脱しているのではないか、との誤解を招く可能性があった。
このため、新法第一条においては、「あわせて」と記載することにより、行政書士法は「行政に関する手続の円滑な実施に寄与」することとあわせて、「国民の利便に資すること」を目的としていることをあらためて明確化したものである。
つまりこの規定の整備は、私人間の権利義務や事実証明に関する書類の作成についても、行政書士が大きな役割を担っていることをあらためて明示したものといえる。
(2) 業務の明確化
改正の第二占は、行政書士が作成することができる書類の官公署への提出手続について代理すること、および行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成することが、新たに行政書士の業務として位置づけられたことである(新法第一条の三)。
旧法では、行政書士は、第一条の二において、官公署に提出する書類その他の権利義務又は事実証明に関する書類を作成することができると規定されるとともに、第一条の三において、官公署に提出する書類の提出手続の代行及び当該書類の作成に関する相談に応ずることができることとされていた。
今回の改正では、第一条の二に規定する業務については変更はなく、第一条の三において、他人の依頼を受け報酬を得て、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項を除き、次の各号に掲げる事務を業とすることができる朝こととされたところである。
以下、新法第一条の三の各号の内容について説明する。
① 行政書士が作成することができる書類を官公署に提出する手続について代理すること(新法第一条の三第一号)
旧法第一条の三においては、官公署に提出する書類の提出手続の代行及び当該書類の作成に関する相談について規定されていたが、このうち書類の提出手続の代行に関しては、許認可申請や届出の書類を依頼人に代わって官公署に提出する際に、窓口において書類の不備等があった場合、あくまで提出手続を代って行う「使者」としての行政書士は、依頼人の意思を確認しなければ訂正をすることができないものとされてきた。
しかし、依頼人にとっても、このような手順を踏むことは非常に煩雑であり、円滑な手続に支障があることから、従来より許認可申請や届出等の手続業務について、代理権を付与することが求められてきたものである。
そこで、今回の改正において、行政書士が作成することができる書類の官公署への提出手続について代理することができることとされたものである。
この規定により、行政書士は許認可申請、届出等の手続について代理する場合には、自ら代理人として提出書類の訂正等を行うことができることとなるものであり、行政に関する手続きの円滑な実施が促進されることが期待されるところである。
② 行政書士が作成することができる契約その他の書類を代理人として作成すること(新法第一条の三第二号)
本号の業務については、今回の改正において新たに規定されたもので、行政書士が代理人として契約その他の書類を作成することができることとしたものである。
ここでいう「代理人として」とは、契約等についての代理人としての意であり、直接契約代理を行政書士の業務として位置づけるものではないが、行政書士が業務として契約代理を行い得るとの意味を含むものであると解される。
またこの規定により、行政書士は契約書に代理人として署名し、契約文言の修正等を行うことができることとなる。
なお、本号に規定する業務は、行政書士でない者でも行うことができる非独占業務として新たに位置づけられたが、今回の改正では、第一条の二および第一九条の規定については何ら改正されていないところであり、第一条の九に規定する業務については、従来どおり行政書士の独占業務として位置づけられている。
したがって、これまでの独占業務が非独占業務となることはないものと解される。
③ 行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること(新法第一条の三第三号)
この業務については、旧法第一条の三においても行政書士の業務として規定されていたものであり、従来どおり、第一条の二の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について、相談に応ずることができることとしたものである。
(3) 行政書士証票の導入について
改正の第三点は、行政書士証票の導入に関することである。
従来の規定では、日本行政書士会連合会は、行政書士の登録を行ったとき、申請者に対し書面による通知を行うとともに、日本行政書上会連合会会則で規定する行政書士登録証を本人に交付することとされていた。
しかし、この行政書士登録証は行政書士名簿に登録されたことを証明するものにすぎず、行政書士の資格証明をするものではないため、例えば行政書士が官公署に書類の提出手続を行う際、行政書士であることの身分証明書の提示を求められたときに、提示できないという不都合が生じていた。
そこでこのような問題を解消するために、日本行政書士会連合会は行政書士の登録をしたときには、行政書士証票の交付をしなければならないこととしたものである(新法第六条の二第四号)。
一方、行政書士の登録が抹消されたとき、又は行政書士が第一四条第一項の規定により業務の停止処分を受けた場合には、その者、その法定代理人又はその相続人は、遅滞なく、行政書士証票を日本行政書士会連合会に返還しなければならないこととされた(新法第七条の二第一項)。
さらに、第一四条第一項の規定により行政書士の業務の停止処分を受け、行政書士証票を返還した行政書士が、行政書士の業務を行うことができることとなったときは、その申請があれば、日本行政書士会連合会は、行政書士証票をその者に再交付しなければならないこととされた(新法第七条の二第二項)。
なお、行政書士証票に関し必要な事項については、日本行政書士会連合会の会則で定めることとされている(新法第七条の三)。
(4) その他
前述のとおり、改正法はすでに平成一三年六月二七日に公布されているが、施行日は平成一四年七月一日とされている。これは、改正に伴って必要な所定の準備、特に、行政書士証票の導入にあたっては、日本行政書士会連合会の会則等について規定の整備等を行う必要があることから、所要の準備期間を設けたものである。
なお、附則の第二条において、改正法の施行について必要な経過措置が規定されている。すなわち、行政書士証票の交付にあたり、改正法の施行の際、現に行政書士法第一四条第一項の規定により業務の停止処分を受けている行政書士に対しては、当該行政書士が行政書士の業務を行うことができることとなる前に行政書士証票を交付してはならないとされている。
三 おわりに
以上が改正法の内容であるが、行政書士、行政書士会および日本行政書士会連合会の関係者のみならず、行政書士制度の運用に携わる多くの関係者が、今回の改正の趣旨を十分に理解され、御協力いただくことにより、改正法の円滑な運用が回られることを強く期待するところである。
【学説】
東京都立大学法学部卒の行政法学者で東京都立大学名誉教授の兼子仁博士も「行政書士法コンメンタール新15版」、兼子仁、北樹出版、令和7年10月20日発行の50から51頁で、「本号の“法定”業務は上記の契約書文言の代理確定という範囲であるが、法定外業務としては本号の規定付帯的に、“契約締結代理”が合法的な行政書士業務たりうる」という解釈を示しています。
契約書類の「代理人」作成と“契約代理”業務
1) 2001(平成13)年の本条旧二号追加改正で、行政書士が作成できる「契約その他に関する書類を代理人として作成すること」と書かれたことは、契約書など民事書類の作成という独占業務を改めて活性化させ、民事契約分野の行政書士業務を行政手続分野と並べて主要なものとなしうる効果をも期待されているようである。
ただし、本号の規定振りはあくまで契約書の代理人作成という書類作成に事寄せた書き方であって、それが立案プロセスで日弁連の了解を得られた成果だということなので(保岡興治衆議院議員「改正行政書士法と今後の展望」日本行政2002年2月号9頁)、解釈問題が大いに残されたことはやむをえまい。
まず、契約書類の代理人作成は文字どおりには多分に権利義務書類の作成にほかならず、本法1条の2の独占業務であるため、その意味では本法1条の3旧二号が非独占であることから非行政書士の営業を合法ならしめることはないものと解される。
2) 契約書等を「代理人として作成する」こと自体は事実行為を指し、民法99条1項が「代理」は「意思表示」について効果を示すとしているところから、行政書士が契約文言の修正記載や代理人署名をなしうる点に、依頼者本人に代わって契約書文言における意思表示内容の確定を任されているものと解される。
しかしそれを超えて、合意形成にいたる契約締結上の代理業務はどうかに関しては、所管官庁筋の解釈が、本号は「直接契約代理を行政書士の業務として位置づけるものではないが、行政書士が業務として契約代理を行い得るとの意味を含むものである」と公示されている(詳解57頁、二瓶博昭「行政書士法の一部改正について」地方自治2001年9月号95頁)。
その趣旨は、本号の“法定”業務は上記の契約書文言の代理確定という範囲であるが、法定外業務としては本号の規定付帯的に、“契約締結代理”が合法的な行政書士業務たりうる、ということと理解できよう。(ほぼ同旨、阿部・未来像18頁)。
もっとも、民事法関係の代理業務に関しては、後述する弁護士法72条にいう法的紛争の「法律事件」における代理は行政書士業務たりえないとの限界を十分に意識して解釈しなければならない。
たとえば交通事故示談にあって、加害者側が事故責任を頑なに否認しているのに対して、代理人として責任追及的に交渉し賠償金を一方的に請求することは、裁判所での民事紛争「調停」(民事調停法2条、33条の2)の代理と同質的なので弁護士業務に属しよう。
それに対し事故責任を結局自認する加害者と過失割合や賠償金額等の“話合い・協議”を被害者から受任した範囲で代理し、合意の示談書をまとめて自賠責保険支払い請求につなげることは、行政書士の合法的な契約締結代理業務に当ろう。
また、遺産分割協議においても、相続人間に調停・訴訟の因をなす紛争状態があれば行政書士は代理介入できないが、助言説得をふくめて相続人間の合意形成をリードし、分割協議をまとめる代理行為は合法であって(同旨、東京地判平5・4・22判例タイムズ829号227頁)、そうした場合、両当事者や複数当事者の代理を務めて契約書・協議書を作成することも民法108条の双方代理禁止に触れないものとも解されよう。
なお、内容証明郵便の代理送付の可否は、文書内容による。