A 行政書士が、非弁行為とならず限定的な範囲(裁判上での解決を除く)で示談交渉などができるという根拠は、弁護士法の非弁行為が成立するためには、報酬性、事件性、業務性の何れも満たす必要があり、特に事件性については、弁護士法を所管する法務省の公権解釈、最高裁判決・最高裁決定から明らかですが、「私的自治(話し合い)での解決が難しく、裁判上で法的手段を用いることでしか紛争を解決できないものでない」限り事件性がないので非弁行為には当たりません。
また、行政書士は、契約その他に関する書類を代理人として作成できるわけですが、総務省の公権解釈や学説でも明らかですが、書類を作成するに当たり、協議、交渉、締結の契約代理が含まれていますし、有償委任契約にして対応する民法上の任意代理人が示談交渉することも認められているのだから、弁護士以外の他士業と違って行政書士は、「契約その他に関する書類(契約書、その他に契約書以外の権利義務に関する書類、事実証明に関する書類)を代理人として作成できる」のですから国家資格を持った行政書士が示談交渉できないという理由にはなりません。
言い換えれば、行政書士は、裁判上での法的手段を用いらなくても私的自治での紛争解決が可能ならば、弁護士法所定の事件性の要件を満たさず非弁行為には当たらないであって、和解契約書を締結するために代理人として慰謝料請求したり、過失割合などを交渉して契約締結を行い、和解契約書を作成することは適法です。
業務法解釈
■<弁護士法>
●(弁護士の職務)
第三条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。
○弁護士法第3条第1項の規定で、弁護士の業務は次のとおり。
・訴訟事件、非訟事件に関する行為
・審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為
・一般の法律事務
○弁護士法第3条第2項の規定で、弁護士は次の業務もできる。
・弁理士の事務
・税理士の事務
●(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
○弁護士法第72条の規定で、次に該当するものは非弁行為となる。
1 弁護士又は弁護士法人でない者は
2 報酬を得る目的で
3-1 訴訟事件、非訟事件
3-2 審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件
3-3 一般の法律事件
に対して
4-1 法律事務(例として、鑑定、代理、仲裁、和解)を取り扱うこと
4-2 法律事務(例として、鑑定、代理、仲裁、和解)を周旋をすること
を業とすることができない。
○ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
と、あるから、弁護士法または例えば行政書士法に別段の定めがある場合は適用されない。
■<弁護士法所定の事件性>
◆事件性必要説
【法務省、総務省、日本司法書士会連合会、日本行政書士会連合会、学説】
法務省、総務省、日本司法書士会連合会、日本行政書士会連合会、学説などは、弁護士法第3条の法律事務と第72条の法律事件の文言の違いなどから事件性を必要とする見解を示しています。
【法務省】
●法曹制度検討会(第24回)議事概要(司法制度改革推進本部事務局)
1 日時:平成15年12月8日(月) 10:30~12:00
2 場所:司法制度改革推進本部事務局 第1会議室
3 出席者:黒川弘務(法務省大臣官房司法法制部司法法制課長)、他省略
○報酬性
報酬を得る目的という要素について御説明しますと、法第72条本文は「報酬を得る目的」で行う行為を規制しております。
この報酬は、現金に限らず物品や供応を受けることも含まれ、額の多い、少ないは問わず、第三者から受け取る場合も含まれると解されております。
他方で、無償で受託する場合は報酬を得る目的があるとは言えません。
また、実質的に無償委任と言える場合であれば、特別に要した「実費」、実費部分を受領しても報酬とは言えないと思われます。
この「実費」の範囲だと思われますが、当該委任事務を行うために特別に費やされた、例えばコピー代等のようなものはこの「実費」に含まれる可能性がございます。
他方、人件費のように、当該事務を行うために特別に費やされたとまでは言えないものは、全体として報酬と評価されることが多いのではないかと考えております。
○事件性
「法律事件」という要素についてでございますが、この法律事件といいますのは、法第72条本文に、「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して」と書かれております。
このうち「その他一般の法律事件」が何を指すかについては、一般に法律上の権利義務に関して争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件とされておりますけれども、この点について、いわゆる「事件性不要説」と「事件性必要説」という考え方がございます。
「事件性必要説」というものは何かと申しますと、例えば列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、言い換えれば、事件というにふさわしい程度に争いが成熟したものであることを要するとしております。
つまり紛争性がある程度成熟して顕在化しているものであれば、法第72条の規制の対象になるけれども、そうでない場合には、つまり事件性がない場合には法第72条の規制の対象にはならない、というのが「事件性必要説」です。
法務省としては、事件性不要説は相当ではないと考えておりまして、事件性必要説が妥当だと考えております。
その理由はいろいろございますけれども、事件性不要説では、処罰範囲が著しく拡大してしまいますし、本来、弁護士法第72条が想定している射程の範囲を超えるような事柄についてまで処罰の対象としてとらえてしまうことになるからという点が一番大きい理由になっています。
事件性不要説の場合、新たな権利義務関係が発生すれば、すべて「その他一般の法律事件」に該当することになりますので、例えば一般の業者が仲介業を行う賃貸住宅の賃貸借契約や不動産の売買契約の締結作用等もすべて法律事件に該当することになってしまって相当ではないと考えています。
法第72条が弁護士の職務を定めた法3条1項に比べて、限定的な文言を用いていることからも分かるように、弁護士法は刑罰をもって、弁護士以外の者が弁護士の業務一般について行った場合を処罰するのではなく、事件性がある法律事務を行った場合に処罰する趣旨であることを定めたものと考えるのが適当であろうと思われます。
以上の理由から、法務省としては、いわゆる「事件性必要説」に立っているわけですけれども、その場合、争いや疑義としてどの程度のものが必要かが次に問題となろうかと思います。
この点、ここに争いや疑義が抽象的又は潜在的なものでもよいと考えてしまいますと、事件性不要説と同じ結論になってしまいますので、争いや疑義は具体化又は顕在化したものであることが必要と考えます。
●第162回国会 衆議院 厚生労働委員会 第26号 平成17年6月8日 午前9時32分開議
政府参考人 倉吉敬(法務省大臣官房司法法制部長)、他省略
○弁護士法の優位
「弁護士法も、それから社会保険労務士法等の隣接法律専門職種の業法も、いずれも法律でございます。
上位規範、下位規範の関係にございません。
ただ、法律専門事務の取り扱いにつきまして弁護士法七十二条が一般的に弁護士以外の者による取り扱いを禁じておりますので、他の法律専門職の業法に弁護士法七十二条の特別法となる部分が出てくる、ただそれだけにすぎない、そういう関係でございます。
弁護士法七十二条が「他の法律」と規定しておりますのは、このような一般法、特別法の関係が存するということを確認的に示したものでございまして、弁護士法が今御指摘の他の法律よりも上位の規範であるということはございません。」
○報酬性
七十二条の要件を説明しろという御趣旨だと思います。
まず、七十二条には、報酬を得る目的と、それから業としてという要件を掲げております。
したがいまして、無償で行う場合はまず七十二条違反にはならない。
○業務性
それから、反復継続して行う事実とか、反復継続して行うという意思がない場合には業としてということになりませんので、これも当たらないということになります。
○事件性
また、弁護士法七十二条が規制しておりますのは、法律事務の取り扱いすべてではありません。
若干条文を援用いたしますが、「訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して」となっておりまして、これについて法律事務を取り扱うこととされております。
この「一般の法律事件」につきましては、いわゆる事件性があるということが必要と解されまして、事件性のない法律事務を取り扱うことは同条に違反しないと解釈しております。
なお、この事件性とは、文献によりますと例えばこのように書かれておりまして、今読み上げました列挙されている訴訟事件その他の具体的例示に準ずる程度に法律上の権利義務に関して争いがあり、あるいは疑義を有するものであること、言いかえれば、事件というにふさわしい程度に争いが成熟したものであるということとされております。
【東京都行政書士会 「行政書士必携~他業種との業際問題マニュアル」】
裁判所の調停や訴訟にまで発展していない段階:行政書士が解決のために「協議」や「話し合い」を主導することは弁護士法に違反しない。
・裁判所の手続が必要なほどに「事件」として争いが成熟したものは弁護士案件。
・裁判所の手続が必要なほどに達していないものであれば、行政書士も対応できるというのが行政書士業界の見解。
【最高裁】
○報酬性
●金銭に限らず、その他の経済的利益、例えば、物品の物品の収受、飲食接待その他有形無形の利益を含み、また将来の謝礼の期待、将来の利益を受ける約束なども報酬と評価されるが、純粋な行為や無償行為については、職務との対価性が認められないため、報酬性はない(最3小判昭和31年5月11日 刑集10巻5号451頁)。
○業務性
●単に偶発的な行為ではなく、反復の継続の意思をもって行うことを業の要件として、回数が少なくても営業準備や顧客誘致がある場合は業務性が肯定されるが、一度きりの好意行為は業務性を欠く(最3小判昭和42年6月23日 刑集第21巻5号668頁)。
○事件性
●法律事件とは、当事者間で法律上の権利義務関係が現実に争われ、又は疑義があり、その私的自治による解決のつかないか、若しくは、その解決をはかることが困難なため、裁判や仲裁、和解、調停等によって、法的手段をもって、その解決をはかることが必要であるか、又は、そのおそれのある事件をいう(最1小判昭和46年7月14日 刑集25巻5号690頁)。
●弁護士法72条の「法律事件」とは、当事者間で法律上の権利義務関係が現実に争われ、又は疑義があり、その私的自治による解決のつかないか、若しくは、その解決をはかることが困難なため、裁判や仲裁、和解、調停等によって、法的手段をもって、その解決をはかることが必要であるか、又は、そのおそれのある事件をいうものと解するのが相当である(最1小判昭和53年3月15日 民集32巻2号314頁)。
●交渉において法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件を弁護士法第72条の一般の法律事件と触れています(最1小決平成22年7月20日)。
【高裁】
同条の言う「その他一般の法律事件」とは同条において列挙された事件(訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件)と同視しうる程度に法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件をいうと解するのが相当である(広島高判平成27年9月2日)。
【地裁】
●法的紛争事件説:権利義務や事実関係に当事者間に法的主張の対立があり、法的な紛争解決を必要とする事件(東京地判平成5年4月22日)。
●紛争性成熟説:事件というにふさわしい程度に争いが成熟したもの(札幌地判昭和45年4月24日)。
●簡易少額説:紛争の実体・態様に照らして、一般人がこれに当面しても、通常、弁護士に依頼して処理することを考えないような簡易・少額な法律事件は弁護士法第72条にいう一般の法律事件には含まれない(札幌地判昭和46年2月23日 昭和43年(わ)第584号)。
◆事件性不要説
【日本弁護士連合会】
日本弁護士連合会は「条解弁護士法 第4版」 日本弁護士連合会調査室 弘文堂 2007年の615頁で、弁護士法第3条の法律事務と、ほぼ同じとする見解を示しています。
【高裁】
法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は、新たな権利義務関係の発生する案件も弁護士法第72条にいう一般の法律事件だと解する高裁の判例(東京高判昭和39年9月29日、大阪高判昭和43年2月19日、東京高判平成7年11月29日、大阪高判平成26年6月12日など)が若干あります。
■<行政書士法>
●第1条の3(業務)
行政書士は、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類(その作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)を作成する場合における当該電磁的記録を含む。以下この条及び次条において同じ。)その他権利義務又は事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成することを業とする。
2 行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
○「官公署」とは「国、地方公共団体およびその他の公の団体の諸機関の総称」をいい、代表的なところとして、省庁・都道府県庁・市町村役場・警察署・裁判所・法務局・労働基準監督署・保健所・出入国在留管理局などがある。
つまり、裁判所も含まれているが、個別法で除外されていると、行政書士は提出する書類の作成ができないことになります。
この「官公署」を最初から行政官庁のみとする解釈は条文上にも規定がなく誤りと言えます。
○行政書士法第1条の3第1項の規定で、行政書士の業務は次のとおり。
1 行政書士は
2 他人の依頼を受けて
3 報酬を得て
4 次の業務をする
・官公署に提出する書類を作成すること
・権利義務に関する書類を作成すること
・事実証明に関する書類(実地調査に基づく図面類を含む。)を作成すること
※上記3つの書類は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものも含まれる。
○行政書士法第1条の3第2項の規定で、業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。
●第1条の4(業務)
行政書士は、前条に規定する業務のほか、他人の依頼を受け報酬を得て、次に掲げる事務を業とすることができる。
ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
一 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続及び当該官公署に提出する書類に係る許認可等(行政手続法(平成五年法律第八十八号)第二条第三号に規定する許認可等及び当該書類の受理をいう。次号において同じ。)に関して行われる聴聞又は弁明の機会の付与の手続その他の意見陳述のための手続において当該官公署に対してする行為(弁護士法(昭和二十四年法律第二百五号)第七十二条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
二 前条の規定により行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理し、及びその手続について官公署に提出する書類を作成すること。
三 前条の規定により行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
四 前条の規定により行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
2 前項第二号に掲げる業務は、当該業務について日本行政書士会連合会がその会則で定めるところにより実施する研修の課程を修了した行政書士(以下「特定行政書士」という。)に限り、行うことができる。
○行政書士法第1条の4第1項の規定で、次の事務も業とすることができる。
1 行政書士は
2 他人の依頼を受けて
3 報酬を得て
4 次の事務も業務とできる
1号
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類を官公署に提出する手続について代理すること。
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等と受理に関して行われる意見陳述のための手続(例として、聴聞、弁明の機会の付与の手続)において当該官公署に対してする行為(弁護士法第72条に規定する法律事件に関する法律事務に該当するものを除く。)について代理すること。
2号
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について代理すること。
・行政書士が作成することができる官公署に提出する書類に係る許認可等に関する審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立ての手続について官公署に提出する書類を作成すること。
3号
・行政書士が作成することができる契約その他に関する書類を代理人として作成すること。
4号
・行政書士が作成することができる書類の作成について相談に応ずること。
※上記の書類は電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものも含まれる。
○2号業務に関しては行政書士法第1条の4第2項の規定で、特定行政書士に限られる。
○ただし、他の法律においてその業務を行うことが制限されている事項については、この限りでない。
【総務省】
「詳解 行政書士法第5次改訂版」、地方自治制度研究会編、ぎょうせい、令和6年3月25日発行の57頁に、行政書士法を所管する総務省の公権解釈の内容が下記のとおり記載されています。
総務省自治行政局行政課の二瓶博昭氏の平成13年9月号掲載の論文「地方自治」第646号、行政書士法の一部改正について、地方自治制度研究会、平成13年9月5日発行の92から96頁で、「ここでいう代理人としてとは、契約等についての代理人としての意であり、直接契約代理を行政書士の業務として位置づけるものではないが、行政書士が業務として契約代理を行い得るとの意味を含むものであると解される。またこの規定により、行政書士は契約書に代理人として署名し、契約文言の修正等を行うことができることとなる。」という解釈を示しています。
【学説】
東京大学法学部卒の行政法学者で東京都立大学名誉教授の兼子仁博士も「行政書士法コンメンタール新13版」、兼子仁、北樹出版、令和5年5月15日発行の50頁で、「本号の業務は契約書文言の代理確定という範囲であるが、(中略)本号の規定付帯的に契約締結代理が合法的な行政書士業務たりうる」と明記しています。